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あとがき
日付も変わった11月3日の午前8時40分頃、私たちの乗ったKLM機は大阪・関西国際空港にランディングしました。
リスボンで買ったハモンやチョリソが見つかるかなと気をもんだのも杞憂に過ぎず―― ――どちらからお帰りで? ――アムステルダムです。 ――観光ですか? ――はい。 ――どうぞお通りください。 と、なんのおとがめもなく税関をパスしました。「SEE BUY FLY」と大きく書かれたスキポール空港の黄色い免税店バッグを持っていたのがよかったようです。 最後までお読みいただいてどうもありがとうございました。 半分は自分の不注意とはいいながらオーバーブッキングにあってしまうなど、冷や汗もののポルトガル旅行でしたが、不思議にあわただしかったという印象がありません。これもすべて旅で出会った心やさしい人々と、大航海時代以来の豊かな歴史を今に伝えつつたおやかに時が流れるリスボンの町のなせるわざだと感じています。 ヨーロッパの果て、イベリア半島の西の端に位置するポルトガルは、どうひいき目に見てもEUの優等生とはいいがたい国ですが、国民の総意で原子力発電所を持たないことを選択し、そのかわりにひとりひとりが節電する習慣を徹底させるなど、見習うべき点が少なくありません。今になって考えてみれば、リスボン空港に到着したときに薄暗く感じられたのは、深夜ゆえに不要な照明がかたっぱしから消されていたせいなのでしょう。 最初のページにも書いたとおり、今回の旅の目的のひとつはファドを生で聴くことでした。できれば3夜連続で、少なくとも2度は聴きに行きたいと思っていたのですが、ご覧のような結果に終わってしまいました。とりわけ最高のファディスタが出演するというバイロアルトにある『ア・セヴェーラ』に行けなかったのが心残りです。 しかし、考えようによっては、これでまたポルトガルを再訪する理由ができたわけですから喜ぶべきかも知れませんね。 心残りついでに書き記せば、3日目にはベレンの塔や発見のモニュメントのあるベレン地区(リスボン西部)を観光する予定でしたし、せっかく購入したリスボア・カードも、結局アルファマを通り抜けてグラサ展望台までチンチン電車で往復しただけでした。宝の持ち腐れとはこのことです。数ある美術館や博物館にひとつとして行けなかったのも残念です――残念ですが、遙かリスボンに想いを馳せて耳を澄ますと、旧式のチンチン電車が急勾配になった狭い路地を曲がるときの車体のきしむ音や、ラパのファドレストランで聴いたマリア・ダ・フェの絶唱が瞬時に甦ってきます。 あまりに短すぎる滞在でしたが、これだけのためにでもリスボンに行けてよかったとしみじみ実感しています。 「儚(はかな)い」という言葉を失ってしまった日本と日本人に愛想を尽かせて、自分が死んだらスペインのセビリアを流れるグゥアダルキヴィール川に灰をまいてほしいと遺言しているのは、ガルシア・ロルカを吟じるので知られる個性派俳優の天本英世さんですが、まだテージョ川に散灰してくれとは断言できないものの、少しだけですが、私にもサウダーデのなんたるかがわかったような気がします。 ※天本英世さんは、2003年3月23日に亡くなりました。ご冥福をお祈りします。
by sr_barbieri
| 2010-11-14 00:57
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